東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2417号 判決
東京相互銀行川崎支店
富士銀行鳥越支店
証拠によれば、被告は二十年位前から羊皮の染色、加工、販売業を営んでいたが、昭和二十八、九年頃、未成年の娘である清水里美の名前で富士銀行鳥越支店に普通預金口座を設け、自己の商取引をするに当り、得意先から帳簿外の扱いを依頼されたときに屡々この預金口座を利用して資金の出し入れをしたり、あるいは清水里美の名前で手形を振り出したりしていたこと、本件手形もその例にしたがい、株式会社早甚の取締役社長早坂甚三郎から融資を依頼された際に、被告が清水里美の氏名を使つて手形面に署名し、名宛人を株式会社早甚と記載してこれを早坂に手渡したものであること、株式会社早甚は本件手形を東京相互銀行川崎支店に対し満期の前に白地式により裏書譲渡し、同銀行は本件手形を満期に支払場所である富士銀行鳥越支店に呈示し、手形金額の支払を求めたが拒絶されたこと、その後昭和三一年七月一〇日東京相互銀行川崎支店は、本件手形の白地を補充せず且つ裏書をしないでこれを原告に譲り渡し、それ以来原告が本件手形の所持人であることをそれぞれ認めることができる。
このように、被告は自己の商取引ないしは手形取引をするに当つて、屡々未成年の子清水里美の名前で設けておいた富士銀行鳥越支店の普通預金口座を利用し、あるいは里美の氏名を使つて手形を振り出していたのであるから、もはや清水里美の氏名がそのまま被告を表示するものとみるべきであつて、本件手形についても、被告は自己の名を表示するために里美の氏名を使用して振出人としての署名をしたものであるから、たとい手形面には振出人として清水里美の氏名が記載されていても、本件手形の振出人は被告であるといわなければならない。